*老化と活性酸素(ROS)
活性酸素(reactiveoxygenspecies:ROS)は狭義では、スーパーオキサイド(02・)、過酸化水素(H202)、ヒドロキシラジカル(0H・)、一重項酸素(102)を活性酸素という。広義には脂質アルコキシラジカル(LO・)、脂質ペルオキシラジカル(LOO・)、脂質ヒドロキシペルオキシド(LOOH)が入る。また、酸素や最近、生体における作用が注目されている一酸化窒素(NO・)も注目されている。これらの中で不対電子対を持つものがフリーラジカルといわれる化学種である(図2)(4)。

図2.活性酸素とフリーラジカル
冠元顆粒薬理解説「4-2 老化のメカニズム」01

近年ROSの産生系と消去機構の研究が進展し、ROSが細胞傷害を引き起こすだけでは
なく、細胞内情報伝達を含めたほとんどの細胞の制御機構に関わることが明らかになって
きている。それと同時に、その制御機構の破綻が老化を促進するということも解明されてき
ている(5)。
ROSは様々な条件下で生体内に発生し、酸化ストレスとしてたんぱく質、脂質、核酸を
酸化修飾する。酸化修飾された生体構成成分が蓄積することが老化の促進につながる。
例えば、種々の酸化ストレスが過剰になると酸化ストレスで修飾されたたんぱく質が増加
して蓄積してくる。修飾されたたんぱく質はクロスリンクしやすいため、プロテアーゼでのタ
ンパク分解を受けづらくなるのも一因である。過酸化脂質もDNA修飾やタンパク修飾を引
き起こす(図3)(6)。

図3.活性酸素種によるタンパクの酸化と防御・分解系
出典:別冊医学のあゆみ「老化のメカニズムをさぐる」鈴木敬一郎ら
冠元顆粒薬理解説「4-2 老化のメカニズム」02

細胞にとって代表的な酸化ストレスは光、放射線、大気汚染、喫煙、虚血再灌流、炎症
など外因性ROSとミトコンドリア由来の内因性のROSがある。ROSが局所的に多量に発生
した細胞は大部分を抗酸化酵素の働きで消去するように働くが、老化したミトコンドリアが
消去しきれないROSは、細胞内小器官を傷害して直接アポトーシスを起こすと考えられて
いる(図4)(7)。

図4.ミトコンドリアにおける活性酸素障害
(別冊医学のあゆみ「老化のメカニズムを探る」鈴木敬一郎ら)
冠元顆粒薬理解説「4-2 老化のメカニズム」03

*老化とミトコンドリア
ミトコンドリアは生体内で最大の活性酸素発生源であり、最近ではこの活性酸素による損傷が老化の原因として重要であると考えられてきている(表2)(8)。抗酸化系のバランス多量の活性酸素が放出され細胞に障害を与える。近年、ミトコンドリアはアポトーシスに重要な関わりを持つと考えられている。ミトコンドリアは細胞傷害やミトコンドリアの障害などのアポトーシスのシグナルにより(ミト
コンドリアPT; permeabilitytransitionpore)を開口させ、チトクロームcを細胞質に放出し、カスパーゼカスケードを活性化するシグナルを増強させてアポトーシスを惹起する。また、過酸化水素のようなROSは転写因子NF-“Bを直接活性化させ炎症性サイトカイン、Baxのようなアボトーシス関連タンパクの発現促進、シクロオキシゲナーゼ-2 (COX-2)の発現を増加させ細胞傷害を促進させる(図5)(9)。

表2.老化における活性酸素ミトコンドリア説の根拠
(別冊医学のあゆみ「老化のメカニズムを探る」鈴木敬一郎ら)
冠元顆粒薬理解説「4-2 老化のメカニズム」04
図5.活性酸素によるミトコンドリアを介したアポトーシスの誘導
冠元顆粒薬理解説「4-2 老化のメカニズム」05

*老化モデル
ヒトにおいて老化実験をすることは難しいことからSAMモデルがつくられた。
Senescence-AcceleratedMouse(SAM)(老化促進マウス)は、AKR/J系マウスと未知の系統との不測の交雑が生じたマウスコロニーから確立された系統で、急速に加齢するという特徴を持つ。生まれてから生態になるまでの期間は約4ヶ月程度で、正常マウスと変わりないが、平均寿命は正常マウスが約24ヶ月であるのに対し、SAMはや<12ヶ月である。 大別すると、促進老化・短寿命を示すSenescence-AcceleratedMouseProne(SAMP)系統と正常老化を示すSenescence-AcceleratedMouseResistant(SAMR)系統の2系統があり、それぞれがさらに細分化されている(表3)('0)。 表3. SAM各系統の形質特徴および平均生存日数 冠元顆粒薬理解説「4-2 老化のメカニズム」06

SAMP系マウスは、皮膚の老化、免疫機能低下、聴覚機能低下、脳萎縮、老化アミロイドーシス、学習.記憶障害、老年性骨粗霧症、白内障などの老化関連病態を統特異的に発症することが明らかになっている。しかし、SAMマウスを用いた研究は、生物の老化機構や老化関連疾患の評価につながると期待されている。