メタボリック症候群の疾患概念は、インスリン抵抗性を共通の基盤として、複数の動脈硬化危険因子である高血圧や高血糖,高脂血症が重積した状態である(図2)(4)。

図2メタボリック症候群の概念
(日本臨床64巻増刊号9:349-355,2006)
冠元顆粒薬理解説「1-2 メタボリック症候群のメカニズム(高血圧(血管,血流),高血糖,脂質代謝異常症)」01

①メタボリック症候群における高血圧

図3にメタボリック症候群における血圧上昇機構を示す。このうち、中心的役割を担っているのは、脂肪細胞の機能異常によるアディポサイトカインの関与である。血圧は、心拍出量と末梢血管抵抗の積で表される。従って、高血圧は心拍出量の増加または末梢血管抵抗の増加またはその両者により起こる。心拍出量の増加は前負荷の増加、すなわち体液量の増加および心収縮力の増加によりなる。メタボリック症候群の原因のひとつである過食は、それに伴った食塩摂取量の増加のために体液量の増加を引き起こすことから、高血圧の原因のひとつになり得る。
また、体液量の増加は腎尿細管においてNaの再吸収の増加によっても引き起こされるが、メタボリック症候群においては脂肪細胞から分泌されるレプチンによって交感神経の活性化が引き起こされることや、脂肪細胞から分泌されるTNF-aやアンジオテンシノーゲンによりレーン・アンギオテンシン系の活性化・インスリン抵抗性と高インスリン血症などにより起こる。
一方、末梢血管抵抗は、機能的血管収縮および血管壁肥大により起こるが、メタボリック症候群による脂肪細胞の機能障害により交感神経系の活性化,TNF-aおよびアンジオテンシノーゲンによるレーン・アンギオテンシン系の活性化,アディポネクチンの減少およびTNF-aの増加によるインスリン抵抗性・高インスリン血症などにより増加する機序が考えられている(5)。
冠元顆粒薬理解説「1-2 メタボリック症候群のメカニズム(高血圧(血管,血流),高血糖,脂質代謝異常症)」02
図3メタボリック症候群における血圧上昇機構
(日本臨床64巻増刊号9:418-421,2006)

②メタボリック症候群における高血糖

持続的な高血糖による代謝異常として、ポボリオール経路の冗進,, advanced glycation end products (AGEs,最終糖化生成物)の産生冗進,プロテインキナーゼC(PKC)の活性化,ヘキソサミン経路の冗進などが知られている。これらは、細小血管症の病因であるがいずれの経路も高血糖による酸化ストレスの増加が関与していることから、動脈硬化の発症にも密接に関与していると考えられている。
特に、糖尿病では血中,組織中に過剰の糖が存在するため、生体内蛋白質は糖化を受けやすくなりAGEを産生する。AGE化した細胞内蛋白は機能変化を起こし、AGE化した細胞外マトリックスは、他の細胞外マトリックスやその受容体との相互作用に異常を生じる。また、血管内においても弾性の減弱や血管透過性の冗進,基底膜の異常,細胞接着能の低下などを引き起こすことも報告されている(6,7)。

③メタボリック症候群における脂質代謝異常症

血中コレステロール、特にLDL-コレステロール(LDL-C)は心筋梗塞の最も強い危険因子であるが、メタボリック症候群での脂質代謝異常は、トリグリセリド(TG)の増加やHDLコレステロール(HDL-C)の低下,中間型リポ蛋白(IDL)などのレムナントリボ蛋白の増加, small denseLDLの出現などを特徴としている。図4にその詳細を示すが、内臓脂肪蓄積時には、脂肪分解により生じた遊離脂肪酸の肝内流入増加に由来する超低比重リボ蛋白(VLDL)の合成増加やインスリン抵抗性によるリポ蛋白リパーゼ活性の低下が成因として考えられる。TGに富む(TG-rich)リポ蛋白が、リポ蛋白リパーゼにより異化を受ける際、その表面組成物からHDLが生成されるが、リボ蛋白リパーゼ活性が低下しているためHDL生成減少が起こる。しかし、HDLはコレステロール逆転送系において末梢組織から肝臓へとコレステロールを転送する動脈硬化の防御的な働きをするリポ蛋白であるため、HDL-Cの低下は内臓脂肪蓄積を基盤としたメタボリック症候群における動脈硬化の発症・進展に深く関与していると考えられる(8)。

図4メタボリック症候群における脂質代謝異常
(日本臨床64巻増刊号9:422-427,2006)
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