糖尿病性腎症 は、1998 年に透析導入原疾患の最大原因となって以来、今なお増加の一途を辿っている慢性疾患であり、また日本は、世界で最も透析患者密度の高い国として、医療経済上からも大きな問題を投げかけている。このことから、糖尿病からの合併症の予防、あるいは悪化を防止する効果的な治療薬の開発が急務となっている。

我々の研究グループは、代表的な 補腎薬の八味地黄丸(はちみじおうがん)に注目し、1 型及び 2 型糖尿病由来の腎症モデル動物を用いて検討し、糖代謝を中心とした改善作用に加え、優れた腎保護作用を有し、また構成生薬の 山茱萸(さんしゅゆ)、さらには山茱萸由来成分の 7-O-galloyl-D-sedoheptulose, morroniside, loganin に糖尿病性腎症の進展を抑制する新たな機能を見出した。

これら成果は、国内外の権威ある雑誌に逐次、原著論文として公表してきたが、2016 年 12 月に刊行の「腎と透析」の特集号 (フリーラジカル―腎疾患との新たな関わり) に依頼総説が掲載され、さらに最近、韓国の「Korean Journal of Medicinal Crop Science」に総説を投稿し、掲載の運びとなった。八味地黄丸の新しい薬効、そして八味地黄丸の効能が山茱萸成分に起因する基礎データをまとめた総説であり、糖尿病性腎症を予防する新しい素材として、臨床応用への礎石となる知見を提唱した内容として、将来の透析患者数の減少に寄与できるのではないかと期待するところである。中医学を専門とする先生方のご意見を頂ければ幸いである。

  1. 2016 年 12 月刊行「腎と透析」特集号 (フリーラジカル―腎疾患との新たな関わり) 総説
  2. 韓国「Korean Journal of Medicinal Crop Science」総説