メタボリック症候群は、食べ過ぎや運動不足といった不健康な生活習慣が原因となって、健康状態の悪化を警告している状態で、動脈硬化性疾患や糖尿病になるリスクが高く、その対策が急がれている。一方、メタボリック症候群の基本的な概念は、脂質異常症や高血圧、糖尿病を別個にとらえて治療するのではなく、生活習慣を改善することによって、これらが予防出来るという立場から提唱され、日本内科学会など関連8学会が、メタボリック症候群の診断基準を発表している。それによると、内臓脂肪型肥満に加え、脂質異常、高血圧、高血糖のいずれか 2 つ以上もった場合に該当し (図1)、中でも内臓脂肪型肥満の危険性が指摘されている。

日本人は欧米人に比べ、BMI [体格指数、体重 (kg)/身長 (m)2] が軽度の肥満でも内臓脂肪がたまり易く、またインスリンの分泌量も少ないことから、少しの肥満でも糖尿病になるリスクが高いとされている。肥満は脂肪が過剰に蓄積した状態であるが、蓄積場所として皮下脂肪や内臓脂肪以外の場所として、肝臓、筋肉、膵臓、腎臓など多くの臓器でも認められている。

本研究では、微小循環障害の治療、予防に効果的な冠元顆粒について、肥満型の 2 型糖尿病マウスと脂肪細胞を用い検討した。肥満型の 2 型糖尿病マウスとして、C57BLKS/J db/dbマウス ( 6 週齢、雄性) を用い、正常対照としてC57BLKS/J m/mマウス (6週齢、雄性) を用いた (図2)。

冠元顆粒 (丹参、芍薬、川芎、紅花、木香、香附子からなる漢方方剤) エキスは 100 あるいは 200 mg/kg 体重を胃ゾンデで 18 週間連日経口投与した。脂肪細胞として 3T3-L1 細胞を用い、10% FCS を含む DMEM で培養した。脂肪細胞への分化誘導は、細胞が confluent になった後、10% FCS、0.5 mM IBMX、1 M DEX、5 g/ml インスリンを含む DMEM で培養した。48 時間後、元の 10% FCS のみを含む DMEM に培養液を戻し、分化の程度を評価した。

db/db マウスでは m/m マウスに比べ、体重、摂食量、飲水量が著しく増加し、血清中のグルコース、レプチン、インスリン、中性脂肪、総コレステロール、LDL/VLDL-コレステロール、遊離脂肪酸が上昇していた。一方、冠元顆粒投与群では db/db コントロール群に比べ、摂食量と飲水量の低下、血清中のグルコース、レプチン、脂質成分が有意に低下し、肝機能の低下傾向を示した (表1)。肝重量も低下傾向を示したが、組織中の中性脂肪、SREBP-1 蛋白、そしてアセチル CoA カルボキシラーゼと脂肪酸合成酵素の mRNA が低下していた。一方、冠元顆粒添加群では、脂肪細胞への分化と脂肪の蓄積を抑制していたが (図3)、これらは PPARγ、SREBP-1c、脂肪酸合成酵素の mRNAやaP2、PPARγの蛋白レベルの down-regulation を介していた。

冠元顆粒は、動脈硬化性疾患のリスクの高血糖や脂質異常を是正している知見が得られ、すでに報告している降圧作用と併せ、メタボリック症候群に対する治療薬の可能性が示唆された。

なお、本研究内容は、第34回和漢医薬学会学術大会 (2017年8月26日~27日、福岡) で発表した。